会社員を「卒業」しても感じる不安:所属を失った後の「取り残され感」と新しいメンタルの保ち方
会社員として組織に所属していると、意識せずとも多くの恩恵を受けています。給与の安定、社会保険、福利厚生はもちろん、日々顔を合わせる同僚、部署という居場所、会社という看板、そして社会における一定の役割や評価軸など、目に見えない「安心基地」のようなものがそこには存在します。
副業から徐々に、あるいは思い切ってフリーランスとして独立し、会社員という肩書きを手放したとき、これまでの「当たり前」が大きく変化します。最初は開放感や新しい働き方への期待に満ち溢れているかもしれません。しかし、時間が経つにつれて、予期せぬメンタル課題に直面することがあります。その一つが、「所属を失ったことによる不安」や「社会から取り残されたような感覚」です。
この感覚は、会社員という働き方が社会の多数派であること、そして組織に属することで得られていた無意識的な繋がりや評価システムがなくなったことから生じやすいものです。本記事では、この「所属を失う不安」や「取り残され感」の正体に迫り、それにどう向き合い、新しい働き方の中でメンタルを健やかに保つためのヒントや心構えについてご紹介します。
所属を失うことで生じるメンタル課題とは?
会社員から副業・フリーランスへ移行した際に感じやすい、所属を失うことに関連するメンタル課題には、以下のようなものがあります。
- 社会からの「取り残され感」や疎外感: 多くの友人が会社員として働く中で、自分だけが違うリズムで生活しているように感じたり、世の中の「当たり前」から外れてしまったように感じたりすることがあります。会社で交わされるような他愛のない会話や、組織共通の目標に向かう一体感から切り離された感覚は、精神的な孤立を深める可能性があります。
- 自己肯定感や自己価値の揺らぎ: 会社員時代は、部署や役職、会社の看板がある程度自分の社会的価値を担保してくれていました。また、上司や同僚からの評価、組織内での役割などが自己肯定感の源泉となっていた方も多いでしょう。それがなくなったとき、「自分は何者なのか」「自分にはどれだけの価値があるのか」といった問いが重くのしかかり、自己肯定感が揺らぐことがあります。
- 社会的な基準からの逸脱不安: フリーランスという働き方は徐々に認知されてきていますが、まだまだ少数派です。「本当にこれで食べていけるのか」「将来どうなるのか」といった、社会的な安定や成功の基準から外れているのではないかという漠然とした不安がつきまとうことがあります。特に、親しい人や家族からの理解が得られない場合に、この不安は増幅されやすいです。
- 孤独感の増幅: 物理的に一人で仕事をする時間が増えるだけでなく、組織という「所属」を通じて得られていた心理的な繋がりが希薄になることで、孤独感を強く感じやすくなります。業務に関する相談相手がいない、日々のちょっとした出来事を共有する人がいない、といった状況は、メンタルに少なからず影響を与えます。
これらの課題は、副業・フリーランスという働き方を選んだこと自体が悪いわけではなく、これまでの「所属」によって支えられていた部分がなくなったことへの自然な反応として起こりうるものです。大切なのは、こうした変化やつらさを認識し、それに対して建設的に向き合うことです。
所属を失う不安とどう向き合い、メンタルを保つか
では、所属を失った後の不安や取り残され感とどのように向き合い、新しい働き方の中でメンタルを健やかに保っていけば良いのでしょうか。いくつかの具体的な方法や心構えをご紹介します。
### 1. 新しい「所属」や「居場所」を意識的に築く
会社という組織に代わる、心理的な「所属」や「居場所」を自分で見つけ、あるいは作る努力が必要です。
- コミュニティへの参加: 副業やフリーランス向けの勉強会、交流会、オンラインサロン、特定の業界のコミュニティなどに積極的に参加してみましょう。共通の課題意識を持つ仲間との繋がりは、孤立感を和らげ、有益な情報交換の場にもなります。
- メンターや相談相手を見つける: 信頼できる先輩フリーランスや、自分のキャリアについて相談できるメンターを見つけることも有効です。経験者の話を聞くことで、不安が軽減されたり、具体的な行動のヒントが得られたりします。
- 友人や家族との質の高いコミュニケーション: 物理的に一緒にいる時間が減っても、定期的に連絡を取り合ったり、自分の状況を話したりする時間を持つことが大切です。ただし、理解を強要するのではなく、素直な気持ちを共有できる関係性を築きましょう。
### 2. 自己肯定感を自分で育む仕組みを作る
外部からの評価や所属に依存せず、自分自身の価値を認められるようになることが重要です。
- 小さな成功体験を積み重ねる: 目標を細分化し、達成可能な小さなステップを設定します。一つ一つクリアしていく過程で、「自分はできる」という感覚を育みます。
- 自分なりの「成功」や「価値」を定義する: 会社の評価基準ではなく、自分は何を達成したいのか、どのような価値を提供したいのかを明確にします。収益目標だけでなく、スキルアップ、新しい挑戦、クライアントからの感謝など、多様な成功の形を認めましょう。
- 客観的な視点を持つ練習: 成果が出ない時や失敗した時に自分を責めすぎず、「なぜうまくいかなかったのか」を客観的に分析し、次に活かす視点を持つ練習をします。ネガティブな感情に飲み込まれず、成長の糧と捉える考え方を養います。
### 3. 新しい働き方の「当たり前」を理解し、受け入れる
会社員時代の「当たり前」と副業・フリーランスの「当たり前」は異なります。その違いを理解し、受け入れることで、社会からの逸脱不安を和らげることができます。
- 多様な働き方に関する情報を得る: 自分だけでなく、多様なフリーランスや個人事業主がどのように働き、生活しているかを知ることで、自分の状況を客観視しやすくなります。成功事例だけでなく、困難や課題にどう向き合っているかの情報も参考になります。
- 自分にとっての「心地よい状態」を見つける: 会社のリズムに合わせる必要がなくなった今、自分にとって最もパフォーマンスが高く、メンタルも安定する働き方や生活リズムを模索します。他人や社会の基準に合わせるのではなく、自分自身の内なる声に耳を傾けることが大切です。
### 4. 心身の健康を最優先にする
メンタルが不安定なときは、基本的な心身のケアがおろそかになりがちです。意識的に健康を維持する努力が不安を軽減する土台となります。
- 規則正しい生活: 働く時間と休む時間のメリハリをつけ、睡眠時間を確保します。
- 適度な運動: 体を動かすことはメンタルヘルスに非常に効果的です。
- リフレッシュできる習慣: 趣味の時間を持つ、自然に触れる、瞑想するなど、自分なりのリフレッシュ方法を見つけて実践します。
- 専門家のサポートを検討する: どうしても不安が強い場合や、メンタルが落ち込んでいる状態が続く場合は、カウンセラーや医師といった専門家のサポートを受けることも選択肢の一つです。
まとめ:所属を失うことは、新しい繋がりを築く機会でもある
会社員という所属を失うことによって生じる不安や取り残され感は、多くの副業・フリーランスが経験する自然な感情です。これは、あなたがこれまで組織の中で頑張ってこられた証でもあります。
この変化は決してネガティブな側面ばかりではありません。組織の枠にとらわれず、自分自身の意志で新しい人間関係を築き、自分にとって本当に大切な「居場所」を見つける機会でもあります。
ご紹介したように、意識的に新しいコミュニティに参加したり、自分なりの成功基準を定義したり、心身の健康を大切にしたりすることで、所属がないことによる不安を乗り越え、新しい働き方の中でメンタルを健やかに保つことは十分に可能です。
孤独を感じたり、不安になったりしたときは、一人で抱え込まず、誰かに相談したり、同じような経験を持つ人たちのコミュニティに目を向けたりしてみてください。あなたは一人ではありません。新しい働き方の中で、あなたにとって最適な「居場所」と心の安定を築いていかれることを応援しています。