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副業・フリーランスの「好きを仕事に」が辛くなる時?得意スキルがメンタル負担になる意外な落とし穴とその対処法

Tags: 副業, フリーランス, メンタルヘルス, スキル, セルフマネジメント, ストレス対策

「好きを仕事に」が、なぜか辛くなる時がある

会社員として働きながら、あるいは独立して、自身の持つスキルや得意なことを活かして働く。これは多くの方が憧れる、「好きを仕事に」という働き方でしょう。特にITエンジニアの方であれば、プログラミングやシステム開発など、特定の技術や分野への深い興味やスキルを副業やフリーランスに活かしたいと考える方も多いのではないでしょうか。

しかし、いざその働き方を始めてみると、「好きでやっているはずなのに、なぜか心が疲弊する」「得意なはずなのに、以前ほど楽しめない」といった、意外なメンタル課題に直面することがあります。会社員時代は評価されていたスキルが、個人の仕事となると重荷に感じられることもあるかもしれません。

これは決して、あなたがその仕事に向いていないということではありません。副業・フリーランスという働き方特有の環境や、得意・好きであるがゆえに生じる、いくつかの「落とし穴」が存在するからです。

この記事では、「好きを仕事に」した副業・フリーランスの方が陥りやすいメンタル負担の原因を探り、それに対してどのように向き合い、対処していくかについて、具体的なヒントをお伝えします。

得意・好きがメンタル負担になる意外な原因

なぜ、得意なことや好きなことが、かえってメンタルを疲弊させる原因となるのでしょうか。副業・フリーランスの環境下で生じやすい、いくつかの要因を見ていきましょう。

完璧主義への誘惑と終わりのない探求

会社員の場合、多くはチームや組織の基準、納期の中で仕事を進めます。しかし、個人の仕事となると、「せっかく自分のスキルでお金をいただくのだから、最高のものを届けたい」「得意分野だからこそ、誰よりも詳しい自分でなければ」といった思いが強くなり、無意識のうちに完璧を求めがちになります。

得意な分野であるほど、技術の進歩や新しい情報のキャッチアップも止まりません。「もっと学ばなければ」「この最新技術も取り入れなければ」といった強迫観念に駆られ、常に終わりのない探求のプレッシャーに晒されます。これは、常に脳のリソースを消費し続ける状態であり、大きな疲弊につながります。

成果と自己価値が直結しすぎるプレッシャー

会社員であれば、成果だけでなく、プロセスや組織への貢献度、人間関係など、多様な側面で自身の価値を感じることができます。しかし、副業・フリーランスの場合、特に始めたばかりの頃は、「受注した案件を無事に完了させる」という成果そのものが、収入やクライアントからの評価、そして自身の価値に直結しやすくなります。

得意分野の仕事を受注できた場合、「得意なのだからできて当然」というプレッシャーや、周囲(クライアントやSNSでの同業者など)からの期待を強く感じることがあります。その期待に応えられなかった場合の「失敗」は、スキルそのものの否定や、自己価値の低下に繋がりかねないという恐れを生み、強いメンタルプレッシャーとなります。

得意分野以外の業務による消耗

どんな仕事にも、得意なスキルを使う部分だけでなく、見積もり作成、契約手続き、クライアントとの交渉、経費管理、マーケティングなど、様々な付随業務が発生します。特に副業・フリーランスの場合、これらの業務をすべて一人でこなす必要があります。

もしあなたが技術スキルは非常に高いが、クライアントとのコミュニケーションや事務作業が苦手だった場合、得意な作業をしている時間は楽しくても、それ以外の苦手な業務に時間を取られることで、大きなストレスや消耗を感じることになります。これが、仕事全体を「辛い」と感じさせる要因となることがあります。

趣味との境界線が曖昧になることによるリフレッシュ不足

会社員であれば、「仕事」と「趣味」の時間は比較的明確に区別されることが多いでしょう。しかし、「好きを仕事に」した場合、仕事で使っているスキルや知識が、プライベートでの趣味や興味の対象と重なることがあります。

これにより、仕事が終わってもついつい関連情報を見てしまったり、プライベートの時間も「仕事に活かせるか?」という視点で物事を見てしまったりと、脳や心を完全に休息させることが難しくなります。結果として、心身のリフレッシュが不足し、仕事への意欲や楽しさが徐々に失われていくことがあります。

得意スキルをメンタル負担にしないための対処法

では、どのようにすれば、得意なことを活かしつつ、メンタルを守りながら働くことができるのでしょうか。いくつかの具体的な対処法を提示します。

1. 期待値のコントロールと丁寧なコミュニケーション

クライアントに対して、あなたのスキルで「できること」「できないこと」、作業にかかる「具体的な時間」や「前提条件」などを、契約前や作業開始前にしっかりと伝えましょう。得意分野であっても、曖昧なまま進めると、クライアントの過度な期待を生み、後々の大きなプレッシャーやトラブルに繋がりかねません。

「これくらいはできて当然」と思わず、専門家として丁寧に説明することで、健全な仕事関係を築くことができます。これは、あなたのスキルに対する信頼を高めることにも繋がります。

2. スキルを細分化し、提供範囲を戦略的に絞る

あなたの「得意なスキル」全体をまとめて提供するのではなく、その中でも「特にストレスなく集中できる部分」「心から楽しめる工程」などに絞って仕事を受けることを検討しましょう。

例えば、システム開発の中でも要件定義は苦手だが設計・実装は得意、デザインの中でもラフ作成は好きだが調整作業は苦手、といったように、スキルを細分化してみてください。そして、自分が最もパフォーマンスを発揮でき、メンタル的な消耗が少ない部分に注力できる案件を選ぶ、あるいは一部工程のみを受注するといった戦略を取ることも有効です。

3. 苦手な業務は効率化または外部に委託する

見積もり作成や経費管理といった事務作業、あるいはSNSでの発信や営業活動など、得意なスキルとは異なる苦手な業務は、ツールを活用して効率化したり、予算が許せば外部の専門家(税理士、秘書サービス、ウェブマーケターなど)に委託することも積極的に検討しましょう。

苦手なことに無理に時間を費やすよりも、得意なことに集中できる時間を増やし、そこで得られる価値を最大化する方が、結果的に収入面でもメンタル面でも健全であることが多いです。

4. 学びや情報収集との健全な距離を保つ

技術や知識のアップデートは重要ですが、「常に最先端を知っていなければ」「周りに置いていかれるのではないか」といった焦りから、際限なく情報収集に時間を費やすのは避けましょう。

計画的に学習時間を設ける、特定の信頼できる情報源に絞る、目的意識を持って学ぶなど、効率的かつ精神的な負担が少ない方法を取り入れましょう。プライベートの時間にまで仕事関連の情報に触れ続ける習慣を見直し、意識的に「何もしない時間」や全く関係ないことに触れる時間を作ることも大切です。

5. 趣味と仕事の境界線を意識する

「好きを仕事に」した場合でも、意識的に趣味と仕事の境界線を設けることが重要です。仕事で使っているツールや場所、時間帯などを、プライベートでスキルを楽しむ時と変える、といった物理的な区別も有効です。

また、仕事でそのスキルを使う際には「価値提供」という目的意識を持ち、プライベートでは純粋な「楽しさ」や「探求心」を満たす、というように目的を切り替える意識を持つことも助けになります。

6. 成果の定義を柔軟にする

完璧を目指すのではなく、「クライアントの課題を解決できた」「最低限の品質基準を満たせた」など、自分にとっての「成果」の定義を現実的で柔軟なものにしましょう。小さな達成感を積み重ねることに焦点を当てることで、過度なプレッシャーから解放されます。

心穏やかに「好き」を仕事にし続けるために

得意なスキルは、副業・フリーランスとしてのあなたの最大の強みです。しかし、その強みを最大限に活かし、同時にメンタルヘルスを守るためには、丁寧なセルフマネジメントが不可欠です。

好きや得意を仕事に選んだのは、きっとあなたの「こう働きたい」という前向きな気持ちがあったからでしょう。その気持ちを大切にするためにも、完璧を目指しすぎず、苦手な部分は補い、心身の休息をしっかりと取りながら、あなたにとって心地よい働き方を見つけていってください。

時には、なぜか辛いと感じる自分を責める必要はありません。それは、あなたが真剣に仕事に向き合っている証拠です。今回ご紹介した対処法が、あなたが心穏やかに「好き」を仕事にし続けるための一助となれば幸いです。